white minds 第一部 ―邂逅到達―

第九章「再会」4

「ずいぶんと嫌われてしまったな」
 地へ降りたアスファルトの自嘲気味な苦笑が、耳に痛かった。傷が塞がりきらず血が滲む脇腹を押さえながら、レーナは瞳をすがめる。隙を見て少しでも治癒の技を使わなければ、後で取り返しのつかない事態を引き起こすだろう。だから時間稼ぎだとすぐにばれるのだとしても、言葉を交わす試みは意地でも続ける。目の前にいるアースがちらとこちらへ視線を寄越したのに気づくが、黙るつもりはなかった。
「嫌われるのは慣れてるんじゃないのか?」
 揶揄にも似た物言いは、いつだったかアスファルト自身が口にしていたものだ。それに気づいたのだろう。彼は右の口角だけを上げた歪な笑みを浮かべ、左の肩をすくめた。その脳裏をよぎった人物は、おそらく彼女が予想したのと違わないだろう。
「言うようになったな」
 緑の双眸に宿っているのは、何故か納得の色だった。驚いてはいない。その反応から、もう十分に「彼女の噂」を耳にしていたことを確信する。こうして顔を合わせるまでは半信半疑だったのだろう。自分の言動が彼の知る頃と大きく異なっている自覚は、レーナの中にもあった。
 アスファルトの挙動に注意を払いながら、彼女は周囲の気の把握にも努める。彼の繰り出す光弾を避けるうちにミスカーテたちと離れつつあるのが一番の気がかりだ。あの場に技使いを置き去りにする意味は重い。――もっとも、そこに一つの気が近づきつつあることはわかっていたが。
「本当に戻ってくる気はないのか?」
 静かにアスファルトが右手を上げると、その動きに合わせて白衣が揺れた。アースが低く構えて警戒を露わにする。レーナは思わず小さなため息を吐いた。アースはこの状況も「戻ってくる」の意味もよくわかっていないはずだ。アスファルトの名や何者なのかは以前に伝えてあったが、彼女たちが研究所を離れることになった経緯については話していない。そこにある複雑な事情を理解してもらうには、彼らの知識はあまりに乏しかった。
「今のわれが戻る意味、わかってるのか?」
 ただ突っぱねても無意味だろうと、レーナは問いかけの方向を変える。脇腹の傷は少しはましになったようだが、左腕の痺れはまだまだ残っている。わずかに体勢を変えるだけで、左肩の重みが増したような気がした。もうしばらくはまともに動きそうにない。この問答でどれだけ時間を稼いでも、それだけでは回復しないだろう。ミスカーテの使う雷系の技は精神系に近いから、当然の結果だった。
「それはお前が重ねてきた所業についての話か? それなら聞いている。相当噂になってるぞ。それとも、ラグナの件か?」
 と、アスファルトは声を漏らして笑った。やはりこれまでの多種多様な『名声』は彼の耳にも届いているらしい。その度に彼が顔をしかめる様が容易に想像できた。もっとも魔族の間に広がる噂ならば彼もかなりのものなのだが。
「……両者かな」
 答えは曖昧になった。レーナが積み重ねてきたものは、もはやどれとどれのように切り分けることができるものではない。ラグナの件は、その始まりになっただけだ。
「それならどちらも今さらだろう。大体、プレインが不在だ」
 右手を掲げたまま、アスファルトは軽く肩をすくめた。左右不均等な力の入り方、皮肉そうに首を捻る仕草は相変わらずで、心がぐらりと過去に引き戻されそうになる。だが研究所にはもう帰れない。それでは何のためにここまで来たのかわからなくなるし、神技隊を守れなくなる。それに彼のためにもならない。ここはどうにかして撤退してもらわなければ。レーナは右手を脇腹から離した。血で汚れた手のひらから、柔らかな光が掻き消える。
「そうだな、プレインは今はいない。しかし、ここにはオリジナルたちがいる」
「そうか、仕方ないな。力ずくか」
 アスファルトのため息が耳に痛かった。諦めてくれたらいいのにと思う一方で、彼が今になって動いた理由も予測がついている。『その時』が訪れたことを知ったからだ。こちらがどれだけ好き勝手していても無視を決め込んでいた彼でさえ、『その時』となれば話は変わる。
「アスファルトこそ早く帰ってくれ。ここは神の巣だぞ?」
 それでも最後まで抗うのがレーナだ。精神を張り詰め、周囲の気を丹念に探りつつも、一縷の望みを託して言葉を紡ぐ。緩やかな風に乗って運ばれてくる砂塵が、辺りで渦を巻いた。
「私の心配をしてくれるのか?」
 すると何か面白がるようにアスファルトは口の端を上げた。嘲笑にも見えるのにその声音には安堵も滲み出ていて、レーナは何と返すべきか逡巡する。前にいるアースの気に苦い色が混じっているのもわかった。アースが全てを覚えていたらと、詮のないことが脳裏をよぎる。自分はどれだけ甘いのか。
「そうだな」
 レーナは静かに奥歯を噛んだ。いつかこんな日が来ることを理解していたつもりだったが、いざ現実となると息苦しさを覚えるのだから、まだ覚悟が足りなかったらしい。だがこのままというわけにはいかない。一刻でも早くアスファルトを追い返し、ミスカーテの方をどうにかしなければ。神技隊に何かあってからでは遅い。
「神だって馬鹿ではない。直属級二人が進入してくるような事態を静観しているわけがないだろう?」
 だから速やかに帰れと暗に告げながら、レーナは手のひらから白い刃を生み出した。ある程度傷は癒えたのでもう十分だ。これ以上の長話はただいたずらに時を過ごすだけ。お互い説得に応じるような性格ではないことは、よくわかっていた。



 リンが覚えている限りでも、死を覚悟する瞬間というのは何度かあった。記憶にある一番最初のそれは、崖から落ちそうになった時だ。あの時初めて技を使い、空を飛んだ。自分が技使いであると知ったのもそれがきっかけだ。いきなり空を飛ぶという大技を使用したので、周囲にはひどく驚かれたものだが。
「でも今以上に厄介な状況はないかもね」
 一歩一歩確かめるように近づいてくるミスカーテは、明らかにこちらを追いつめることを楽しんでいる。それなら怯えてやった方が時間稼ぎになるのだろうか? もっとも、何のための時間稼ぎかは全くわからないが。待ったからといって何かが好転するとも思えないとなると、それは単に恐怖の時間を引き延ばしているだけなのかもしれない。
「嬉しいなぁ。僕を前にして逃げ出さない人間というのは、実は珍しくてね」
 ミスカーテは機嫌良く微笑んだ。そして黒い長衣の内側から何かをつまむように取り出す。それはリンの目には、指先ほどしかない筒状の硝子のように映った。一体何なのかはわからないが、喜ばしいものとは考えにくい。
「僕の気にあてられて、倒れちゃう人間もいるくらいなんだ。魔族でも下級だと倒れるとまではいかなくても、かなり萎縮しちゃうんだよね。これって実は結構めんどくさいことで」
 不安と恐怖をこれでもかと引きだそうとしているらしく、破顔しながら語るミスカーテはやけに多弁だ。すると緩やかな風に吹かれて、彼の朱色の髪が揺れる。縮れたような髪には、よく見ると赤い房がいくつか混じっていた。それはどうしても血の色を連想させる。髪色も服の色も、先ほど現れた魔族とは対照的だ。共通点があるとすれば、人間ではあり得ぬ色彩を身に宿していることか。
「だから君みたいな強い人間には興味があるんだ。せっかくだから僕の実験に参加して欲しいなぁ」
 つと、ミスカーテは足を止めた。そして手の中で弄んでいた硝子の筒を軽い調子で弾いた。はっとしたリンは即座に結界を生み出す。あれが何であれ直撃するのだけは避けたい。
「面白い結果が得られると思うよ」
 筒が地面に落ちた途端、青い煙が上がった。それは砂と一緒に風に巻かれ、一気に舞い上がった。結界を維持しながらもリンは歯噛みする。もしかすると今のは単なる目くらましかもしれない。選択を誤ったか?
「っく!」
 次の瞬間、突如として結界越しに熱の気配を感じた。炎系の技だろうか? どちらにせよ結界を張ったことは正解だったようだが、これでは他の技が使えない。今接近されてしまったら――。
「よろしくね」
 嫌な予感は的中した。ミスカーテの声が、すぐ傍で聞こえた。振り返ろうとした彼女の耳元を、何かがかすめていく。と同時に鋭い痛みが走り抜け、悲鳴が漏れそうになった。気を探る暇もない。どうにか身を捻った彼女は無我夢中で地を蹴った。結界を解いたせいでチリチリとした熱気が肌を這う。吸い込んだ空気の熱さに、喉も肺も焼けそうだ。
「勘がいいなぁ」
 足下を通り抜けていったのは炎球だろうか。地を抉るような音と共に焦げた臭いが鼻をついた。リンはそのまま風を身に纏わせ、咄嗟に短剣を構えた。接近戦は苦手なのだが、こうなったら本当に勘に任せるしかない。どうにか着地して体勢を整えつつ、ミスカーテの姿を求めて視線を巡らせる。
「――趣味が悪いな」
 刹那、聞き覚えのない声が前方から聞こえた。淡泊な男の声だった。確かに今まで何もなかったはずの空間に、突如として気が現れている。リンは結界の準備をしつつ目を凝らした。にわかに吹き荒れた風の中、建物の残骸が崩れていく音が響き渡る。
「性格が悪いだけじゃあなかったのか」
 まず見えたのは、青い髪だった。無世界で初めて見た晴れた日の海を思わせる明るい青だ。それを背中の上の方で緩く括っている。それだけで男が人間ではないと確信できてしまった。後ろ姿なので顔は見えないが、どことなくラウジングを彷彿とさせるゆったりとした衣服を身につけている。
「来てしまいましたか」
 その男の向こうに、ミスカーテの姿が見えた。先ほどまでの余裕の態度が嘘のように、苦笑を滲ませた表情を浮かべていた。今の会話を振り返るに、この男もミスカーテの知り合いなのか? どうやら今度は望んでいなかった相手のようだが。
「また性懲りもなく追いかけてきたんですね。そんなに僕が好きなんですか? この直属殺しが」
「勝手な異名をつけるな。私の名はシリウスだ」
 男――シリウスは、リンに背を向けたまま大きく肩をすくめた。やりとりから推測するに、二人は敵同士のようだ。まさか神なのか? 無論、だからといってこのシリウスという男がリンの味方とは限らないのだが。それはレーナたちのことを考えればよくわかる。敵の敵は仲間ではない。
「まあ誰だっていいです。僕の邪魔をする奴には退場してもらいます」
「退場するのはお前の方だ。わざわざ地球で好き勝手するとは、ずいぶんな度胸だな。今まで逃げ隠れしていたのが嘘のようだな」
「そりゃあ、ここに穴があるとわかれば動き出しますよ。引きこもってるあなたたちとは違うんですから」
 二人の気がぶつかり合うかのような、そんな掛け合いが続く。互いの存在を許さぬ威圧感は、ぞっとするほど冷たいのに熱かった。この対峙には覚えがある。神と魔族が相対している時にのみ起こるものだ。
「さすが、引きこもらされていた奴が口にする言葉は違うな」
「黙りなさい!」
 先に動いたのはミスカーテだった。左手から生み出されたのは青い炎だ。それが熱いのか冷たいのか遠目からではわからないが、決して触れたいとも思わない。焼かれても凍らされてもろくなことにはならないだろう。
 しかし、リンが案ずるようなことは何も起こらなかった。青い炎はシリウスの生み出した結界に阻まれて、あっさり霧散する。
「平気か人間?」
 結界が消えると同時にすぐさま問いかけられ、リンは思わず瞠目した。安否を気遣われるとは思わなかった。まさか守ってくれるつもりなのか?
「あ……はい」
 何か問いかけるべきかもしれないが、今の彼女には頷くしかなかった。ここでシリウスの邪魔をするのは得策ではない。彼が本当に彼女を守るつもりならば、ミスカーテはそれを利用しようとする可能性がある。そうでなくとも二人の攻防に巻き込まれるのは遠慮したいところだ。ならば余計な言動は慎むべきだろう。
「あいつは妙な薬を使う。下がっていろ」
 忠告するシリウスに、素直にリンは従った。続けて放たれたミスカーテの黒い矢も、やはりシリウスの結界が弾き返してしまう。ミスカーテがその場を動かないのは、シリウスの実力を試しているからか? それとも別の理由があるのか? リンには定かではないが、ミスカーテの気に滲む苛烈な感情が、まだまだ警戒せよと訴えている。
「リン!」
 三度目の攻撃が迫った時、今度は後方から聞き慣れた声がした。ぱっと心に明かりを灯すこの響きは間違いようがない。リンは短剣を握る手に力を込め、肩越しに振り返る。
「シン!」
 呼べば笑顔が返ってくる。瓦礫を飛び越えつつこちらへと走り寄ってくるのはシンだ。魔獣弾に吹っ飛ばされたのは記憶に残っているが、見たところ大きな怪我をしている様子もなかった。走りも安定しているし、上から借りたあの剣も無事だ。気が抜けてしまいそうになる自分を叱咤激励していると、再び吹き荒れた風が髪を揺らす。
「リン、平気か!?」
「何とかね。あの人が来てくれたから」
 リンは後方へ下がりながら、ちらとシリウスの方を見遣った。ちょうど青い風がシリウスの結界で霧散しているところだった。ミスカーテの攻撃はひたすら単調だ。しかし実際あの技が決して弱くはないことを、リンは身をもって知っている。あっさり防いでいるシリウスが強いだけだ。
「あれは、さっきの……」
「シンも会ったの?」
 駆けつけてきたシンの手が、リンの肩を掴む。思わぬ言葉に視線を向けると、シンは神妙な顔で前を見据えた。こうして近くで見ると擦り傷だらけであることに気づく。自然とリンの眉根は寄った。
「倒れてたオレの前に現れたんだ。なんか、よくわからない助言をして去っていったんだけど」
 そんな不明瞭な説明では状況が掴みきれないが、それはシン自身もよくわかっていないからなのか。しかしこれで一つ確かめられたことがある。あのシリウスは、少なくとも人間を殺そうとはしていない。
「つまり敵ではなさそうね」 
 命を狙ってきたり、実験に利用しようとはしてこない、警戒の必要はない者ということだ。守ってくれているように見えるのは今だけかもしれないが、とにかくありがたいことには変わりない。
「だといいな」
 答えるシンの声はわずかに苦い。楽観視しないのが彼の長所でもあり欠点でもある。それでも一人ではないという事実に安堵して、リンはそっと唇を引き結んだ。一人で足掻かなくてもいいという事実がとにかく心強い。神技隊に選ばれてからは、そんな経験ばかり重ねている気がする。
「ところでシン、怪我は?」
「……致命的なのはたぶんない。リンは?」
「たぶん大丈夫」
 それでも念のため確認はしておく。お互い曖昧な返答になるのは仕方がないだろう。極限の状況に追い込まれていくと、色々な感覚が麻痺するものだ。本当はひどい骨折なのに歩けてしまうこともある。だから今のところは支障がない、としか答えようがない。
 不意に、空気が震えた。ミスカーテの放った青い炎を、シリウスの生み出した青い風が包み込むのが見えた。まるで空間そのものが歪められたような違和感と共に、気の波動がリンたちにも伝わってくる。今まであまり経験したことのない類の感覚に、腑の底から吐き気がこみ上げてくる。これは一体何なのか。まさか強烈な技同士の干渉か?
「さすがですね!」
 ミスカーテが吠えた。風に巻かれた朱色の髪が揺れる様は、彼が放つ炎を連想させる。ばさばさと音を立てつつ翻った黒い長衣は、煙る空気の中でも一際目立った。
「後ろに全く余波も出さないとはっ」
「お前の狙いなんぞすぐにわかる。浅はかだな」
 一方のシリウスは冷静だ。どこか面倒そうに答える後ろ姿は妙に頼もしい。彼が先ほどからその場を動いていないのは、やはりリンたちがここにいるからなのか? ならば離れた方がいいのか? 無論のこと、それをミスカーテが許してくれるかどうかはわからないが。
「ミスカーテ様!」
 そこへ近づいてくる気配があった。今度はリンにもその動きが察知できるし、気にも覚えがある。このどこか冷たい、嘲笑的でありながらも揺れ動きやすい気は、おそらく魔獣弾だ。
「大丈夫ですか!?」
 案の定、空から降り立ったのは魔獣弾だった。着地した勢いを殺さずに駆け寄ってきた彼は、ミスカーテの横で足を止める。シリウスはそれを静観したが、当のミスカーテは訝しげに首を捻った。
「魔獣弾、どうかしたんですか?」
「いえ、強い神の気を感じたものですから」
 魔獣弾は何か言いづらそうな声を出し、ちらとシリウスへ一瞥をくれた。ここで魔族が増えるのは全く喜ばしいことではないが、それでも今の言葉でわかったことがある。やはりシリウスは神だ。
「気になって来たと? あなたの力でどうにかなるような相手ではありませんよ」
 頭を振ったミスカーテは、呆れ顔で半眼になる。足手まといだとでも言い捨てそうな気が滲み出ていた。実際、その通りなのかもしれない。魔獣弾よりもミスカーテの方が実力は上だろう。そのミスカーテがシリウス相手となると慎重になっている。魔獣弾一人増えたところで、という思いがあるに違いない。
「ああ、でもそうですね」
 しかし何か思い直すことがあったらしく、ミスカーテはふいと口角を上げた。そして朱色の髪を指に巻き付けて、楽しげな声を漏らす。
「少し状況は面白くなってきたかもしれません」
 ミスカーテの視線は、魔獣弾が駆けつけてきた方へと注がれた。そこでリンも気がつく。ミスカーテが目を向けた先から、複数の気が近づいてきている。合わせて三つだ。リンも全ての気を覚えているわけではなかったが、これならば即座に判別ができる。
「滝さん!」
「それにカイキとイレイだわっ」
 魔獣弾と戦っていた三人だからなおのことわかりやすかった。魔獣弾が急に動き出したのでそれを追いかけてきたのだろうか? まだ姿が見えるほどの距離ではないが、気は確かに近づいてきている。この速度ならまもなく着くだろう。
「では大規模な実験といきましょうか。魔獣弾、手伝ってください」
 けれどもそれを喜んでもいられなかった。ミスカーテの声が意気揚々と響き、辺りの空気を一変させる。リンは息を詰めた。ミスカーテは先ほどとは違う、もう少し大きな硝子の筒のようなものを手にしていた。今度は目くらましでも何でもなく本当に何らかの効果があるものなのか? シリウスも「妙な薬を使う」と言っていた。どんな効果があるのかは知らないが、ミスカーテの手元には注意しなければ。
「はい、もちろんです」
 泰然と魔獣弾が首を縦に振るのが見えた。滝たちが向かってくる以上、リンたちもひっそり戦線離脱するわけにはいかない。できる限りシリウスの邪魔にならない範囲で自分たちの身を守らねば。
 リンとシンは目と目を見交わせ、うなずき合った。砂塵の嘆きと共に、かすかに地面が震えたような気がした。

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