white minds 第一部 ―邂逅到達―

第一章「影の呼び声」3

 日が昇る前の路地裏は、春といえども冷え込みが強くなる。朝焼けの予感が滲んだ空気の中を、青葉は無言で歩いていた。数歩後ろには梅花がいるのだが、足音どころかほとんど気配がない。普通の人間程度の強さの気がわずかに感じられる程度だ。
 こういった気配の隠し方において、彼女の技術は群を抜いている。完全に気を消してしまうと、顔を合わせた相手が技使いであった場合は違和感を持たれる。そして隠していることがばれてしまう。特徴的な気を持っているだけに、彼女はいつも配慮しているのだろう。普段の生活でも、実はある程度抑えている可能性さえあった。本格的な技を使っているところを見る機会がないため、本来の状態が把握できていない。
 一年も共に過ごしているのにこの程度かと、青葉は内心で嘆息した。仲間とは一体何なのだろう? だが余計なことを考えてばかりもいられない。油断すると何かを蹴飛ばしかねなかった。いまだ夜の気配を残した道では、街灯や店の明かりばかりが頼りだ。人気もなく静まりかえっているため、ちょっとした物音もすぐ耳につくので気をつけたい。
 不意に風が吹き抜け、ペットボトルらしき物の転がる音がした。安物の上着では寒さがやけに身に凍みて、青葉は首をすくめる。大通りとは違って、建物と建物の間を擦り抜けていく風は強い。目を細めながら、彼は梅花の方へと一瞥をくれた。
「お前、飛ばされるなよ」
 路面の先を見つめていた梅花は、つと顔を上げた。後ろで一本に結わえられた黒髪が、風に煽られて揺れている。肩に力が入って見えるのは寒さのためか。それでもほとんど変わらぬ無表情のままで、彼女はわずかに頭を傾けた。
「いくらなんでも飛ばされないわよ」
 軽そうに見えるという自覚はあるらしい。実際の体重など青葉は知らないが、梅花は小柄だ。身長自体はこの無世界ではさほど小さい方でもないが、どうしても華奢に映る。いざ戦いとなったら簡単に折れてしまいそうだった。そんなことを考えると、つい昨日のことが思い出される。前へと向き直った彼は顔をしかめた。
「今さらだけど、本当にアサキたち連れてこなくてもよかったのか?」
「戦闘するつもりじゃないんだから、人数がいても邪魔なだけでしょう。話もややこしくなりかねないし」
 淡々と答える梅花の声に、感情は滲み出ていない。青葉は曖昧に頷いた。邪魔だのややこしくなるなどと冷たい言い様だが、無理に早朝に引き連れていくことはないという意図なのだろう。アサキはともかくとして残りの二人は朝が弱い。昨日も辛そうだった。
 とはいえこの一件に関しては彼らも気にしていたのだから、連れてきてもよかったと思うのが青葉の意見だ。仲間が突然『神技隊』に襲われて気にするなというのが無理な話だろう。戦う予定はないといっても、きっと心配している。
「あー何でまた自分を悪く見せる言い方をするかな。だからサイゾウが――」
「いた」
 青葉の文句を、梅花の囁きが遮った。彼にもようやく聞こえるといった程度の声だった。仲間たちから現実の問題へと思考を引き戻した彼は、路地の先に三人の男女が現れたことを確認する。曲がり角から先に顔を出したのは、昨日もいたミツバという少年だ。いや、青年か。この薄闇の中でも、彼の目映い金髪は目につく。
「あ、来た来た!」
 ミツバも青葉たちの姿を認めたようだった。純粋な好意を感じさせる笑顔を浮かべ、歩調を速めて進み出てくる。昨日とは打って変わった様子だ。彼の後ろに続いたのは、髪の長い女だった。背丈はミツバよりもやや高いところを見ると、女性としては長身な方か。その女性の斜め後ろには、青葉もよく見知った青年がたたずんでいた。顔がはっきりと見える位置ではないが、この気を忘れるわけがない。ヤマトの元若長――滝だ。
「ほら滝、レンカ。彼らだよ」
 青葉たちを指さして、ミツバが言う。彼ら三人からやや距離を取ったところで、青葉はおもむろに立ち止まった。声は十分届く範囲だ。彼の隣で足を止めた梅花が、何も言わずに一礼する。薄暗い路地のため、少しでも離れると表情はよくわからなくなってしまう。そんな中、一番手前にいるミツバの妙に気さくな笑顔が目立った。
「昨日話したでしょう? 青葉と梅花」
 ミツバは青葉たちへと手を向けたまま、朗らかにそう言う。その言葉に導かれるよう、一番奥にいた滝が数歩近づいてきた。ようやく青葉からも顔が見えるようになる。頼もしい理知的な眼差しは相変わらずだ。
「まあ、知り合いだな。当人に間違いはなさそうだ」
 ミツバに向かって、滝は頷いてみせた。第十六隊ストロングのリーダーであり、元ヤマトの若長である彼は、端的に述べれば好青年だ。青葉よりも三つほど年上だが、立場故に培われたものか、年齢以上の落ち着き方をしている。比較的長身ではあるが茶褐色の髪に茶色い瞳と特段珍しい容姿ではないはずなのに、たたずまい一つ取っても不思議な安定感と清潔感を伴っていた。青葉はその差を再確認しながら、複雑な吐息を漏らす。
「変わらないな、滝にい」
 ぼやきにも似た呟きが届いたのか届いていないのか。滝は青葉の方は見ずに、唸るミツバの頭をぽんと叩いていた。先ほどから女性の方は黙ったままだが、どうやら微笑んでいるらしいというのはわかる。『強い技使いには美人が多い』という噂話を、青葉は思い出した。この薄暗さによる効果もあるかもしれないが、言うならば正統派美人という類だ。先ほどのミツバの呼びかけから推測するに、レンカというのが名前らしい。
「じゃあ嘘じゃなかったんだね。本当に神技隊なんだ。ダンのことをあんな風にしておいて」
 ミツバはゆっくり手を下ろすと、わかりやすくがっくりとうなだれた。先ほどの笑顔は繕っていたのか。人聞きが悪いと青葉はむっとした。それではまるで勝手に青葉たちが戦いを挑んだみたいな言い様だ。
「梅花をいきなり攻撃してきたのはそっちでしょう」
 刺々しさの抜けない声音で青葉がそう言い捨てると、面を上げたミツバは眉をひそめた。隣からは、「喧嘩を売るな」と言わんばかりに梅花の視線が突き刺さってくる。言い争いに来たわけではないことは理解している。それでも言われっぱなしなのは気分が悪かった。主張するところはしておかなくては気が収まらない。
「まあミツバ、そんな顔するな。……青葉も」
 いたたまれない沈黙が広がりつつある中で、滝は首の後ろを掻きながら呆れ混じりに口を開いた。その瞳に「面倒だな」という感情が浮かんでいることを、青葉は瞬時に読み取る。赤の他人ならば先ほどの表情と同じに見えただろうが、そんな目を見慣れていたせいですぐにわかった。何でこんなことになっているのか理解しがたいのだろう。青葉とて、神技隊同士でのいざこざなど今まで聞いたことがない。全ては昨日ミツバたちを襲ったという謎の人物のせいということになるが。
「そっか、本当に神技隊なんだ。僕たちを急に攻撃してきた子とは違うんだね?」
 渋々納得したように相槌を打ったミツバは、梅花の方へと視線を向けた。何度目かの苛立ちを覚えた青葉だったが、当の梅花は冷静だ。不満を表すことなく頷く。
「はい、昨日も説明した通りです。午前中は違法者の取り締まりで忙しかったですし、私は神魔世界にも行ってましたから」
「そういえば、昨日は『ゲート』が開かれた感覚があったわね」
 そこで、それまで黙り込んでいた女性――レンカが口を挟んだ。神技隊が口にする『ゲート』というのは、この無世界と神魔世界を繋ぐ『扉』を指していることがほとんどだ。扉といえば耳障りがいいが、実際のそれは穴だった。本来あってはならないはずの穴。それが生じたせいで、青葉たち神技隊はこの無世界へと派遣されることになった。
 異世界との出入りを封じる巨大な結界に突如として穴があいたのは、今から約十八年ほど前のことだ。それが知れ渡ってしまった結果、無断で異世界へと飛び出してしまう違法者が現れた。穴そのものは幾つかあるようだが、神技隊らが利用している一番大きなものを通常はゲートと呼んでいる。穴を無理に広げないため、ゲートを利用することができる者は限られていた。梅花はその一人だ。
「ゲートの動きまで察知できるなんて、さすがレンカ先輩ですね」
 レンカの言葉を受けて、梅花がかすかに苦笑する。彼女がそんな風な物言いをするのを、青葉は初めて聞いたような気がした。技のあるところには必ず気があるというのが技使いの認識だが、その些細な変化をどこまで読み取るかには個人差がある。レンカは得意な方なのだろう。ゲートの傍は、どうしても気配が乱れがちだ。
「レンカがそう言うなら本当にそうなんだね」
 ミツバもこれならば納得と言わんばかりに、しきりに首を縦に振っている。どうやらこれで信じてもらえそうだと、青葉は胸を撫で下ろした。しかし問題はまだ残っている。それではミツバたちを襲ったのは何者なのか?
「それじゃあ、あれは何だったんだろう?」
 同様のことを考えたのか、ミツバはつと頭を傾けた。技使いでありかつ神技隊ではないとなると、違法者にはまず間違いない。ただし、わざわざ神技隊を狙ってくる違法者というのは聞いたことがなかった。ひょっとすると神技隊に恨みを持つ者なのか。
「私とよく似た人だったんですよね?」
「うん、顔はそっくりだった。たぶん背とか体型も同じ感じだったと思うし、年齢もそう変わらないんじゃないかなあ」
「そうですか」
 確認する梅花に、ミツバは頷いてみせる。ますます不可解だ。まさか生き別れの双子でもないだろうし。この無世界にはドッペルゲンガーという存在がいるという噂も聞いたことがあるが、それが気を放っていたり技まで使えるのかどうかは不明だ。
「背も年もね……。じゃあ恰好は? 服装」
 皆が黙り込みそうになる中、レンカがさらに問いを続ける。聞かれたミツバは空を睨み付け、記憶を掘り起こしている様子で唸った。全員の視線がミツバへと集まる。
「えーと、上は白っぽくて、薄い色のスカートで、確かブーツで。何かちょっと変わってた」
「それのどこが変わってるんだ?」
 曖昧な情報を提示するミツバに、怪訝そうな面持ちで滝がそう尋ねる。青葉は相槌を打ちながら隣の梅花へと一瞥をくれた。彼女にその恰好をさせたところを想像してみたが、変な服装だとは思わない。彼女に白はよく似合う。
「いや、何かちょっと違ってたんだよ。なんて言うか、そこら辺を歩いている感じじゃなくてさっ」
 皆が皆不思議そうな顔をしているためか、眉根を寄せたミツバは慌てて両手を振り上げた。それならもっと具体的に説明して欲しいものだと、青葉はややうんざりとした気持ちになる。昨日の勘違いといい、思い込みが激しいのか? だが『ストロング』に選ばれているのだから、彼も実力者ではあるのだろう。少なくとも技使いとしてはそのはずだ。
「この世界で一般的な服装、ということではなかったんですね。情報助かります。髪の長さも私と同じくらいでしたか?」
 大した情報は得られないかもしれないと青葉が閉口していると、淡々と梅花が質問を続けた。『仕事』が始まったことを感じ取り、彼はつい瞳をすがめる。自分が関わっていることなのに、まるで他人事のような冷静さだ。
「髪? そうだね、同じくらいだったかな。今の君よりもうちょっと上の方で結んでた」
「念のため確認しますが、髪も瞳も黒ですよね?」
「そうだよ、一緒。って、そんなことまで聞いてどうするの?」
 躊躇せずに答えながらも、ミツバは思い切り首を傾げた。メモでも取っていれば『仕事』であるとわかりやすかったのだろう。これは調査だ。上に情報を要求される前にあらかじめわかる範囲で調べておくという、彼女なりの策だ。おそらく何度も宮殿へ行かなくてすむようにするためだろう。青葉はちらりと滝、レンカの顔を盗み見た。二人とも神妙な表情をしている。彼らは梅花の立場のことを知っているのだろうか?
「多世界戦局専門長官へ報告しなければなりませんから。できる限り具体的な情報の方がいいんです」
 問われた梅花は端的に答えた。ミツバは一瞬きょとりと目を丸くし、それから後ろにいる滝とレンカの方を振り返った。そして二人が何も言わないのを確認してから、そろそろと青葉たちへ視線を戻す。
「そういえば、僕らを選ぶ側にいたとか言ってたっけ。そっか、君はジナル族出身なんだ」
「そうです」
 梅花はゆっくりと頷いた。ジナル族というのは、『宮殿』に住む者たちの総称だ。住んでいる地域によってヤマトだのウィンだのと呼ばれているのだが、それが宮殿の場合はジナルとなる。
 神魔世界の中枢に位置する宮殿は謎多き場所だった。しかしどうやらそれは中にいる者たちにとっても同様らしいと、青葉は神技隊に選ばれてから知った。『上』に位置する者だけが、どういう目的で何を行っているかを把握している。宮殿側に属することになり、その命で違法者を取り締まる神技隊も同じだ。異世界へ飛び出すこと、公で技を使うことが何故禁じられているのか、説明されていない。
 混乱を来すから、という推測なら青葉にもできる。技の存在しない世界で技使いが力を行使したら、とんでもないことになる。だが、そうなったとしても困るのはこの無世界にいる者たちだけだ。正直に言ってしまえば、神魔世界に住んでいる者たちには関係がない。
 では何故それを取り締まろうとするのか? 結界に影響を与えてしまうのか? そもそも発端となっている結界とは何故生み出されたのか? どうして穴があいたのか? 青葉たちは何も知らされていなかった。そんな巨大な結界があることすら、穴の件が広まるまでは周知させていなかったらしい。
「そっか、ジナルからも派遣されてるんだ。そうだよね、滝が選ばれたくらいだもんねー」
 一人で納得しているようで、ミツバは何度も首を縦に振っている。上が違法者を取り締まる理由はわからないが、ヤマトの若長やジナル出身の者まで派遣するくらいなのだから、ずいぶんと必死だ。違法者という存在はよほど上にとって不都合らしい。
 梅花は何か知らないのだろうか? 青葉はちらりと横目で彼女の様子をうかがった。少しずつ日が昇りつつあるおかげで、些細な表情の変化まで見えるようになってきている。とはいえ、梅花の場合は相変わらず感情の読み取りにくい顔をしているが。
「ミツバ先輩たちを襲ったのが何者かはわかりませんが、妙な動きがあることは把握しました。上には私から報告して、指示を仰ぎます。それまでは引き続き警戒しておいてください」
 青葉の視線など意に介さず、梅花はそう告げた。ミツバたちは頷く。確かに、再び襲われないとも限らない。注意は必要だろう。もちろん、それは青葉たちも同様だ。帰ったらアサキたちにも念を押そうと青葉が心に決めていると、滝と梅花の会話はさらに続いた。
「わかった。その方がいいだろうな」
「お願いします。何かあれば通信機へ連絡しますので」
「へぇ、この機械、そういうことも可能なんだな」
「実は、色々と受け取れます。送信の制限がされているだけなんです。勝手に制限解除すると上に怒られますけどね」
 驚く滝へと、梅花は微苦笑を向ける。通信機というのは、神技隊のリーダーに渡される腕時計型の機械のことだ。違法者を捕まえた際に上への信号を送る機能くらいしかない、というのが青葉の認識だったが、どうやら違うらしい。梅花の言い様からすると、彼女は勝手に制限を解除して使ったことがあるようだ。
「詳しいな。さすがは多世界専門戦局長官の補佐だな」
「元、です」
 滝の言葉を、梅花は即座に訂正した。そんなことまで滝は知っていたのかと、青葉は密かに喫驚する。神技隊の選抜から後方支援まで担うという多世界専門戦局部は少人数で構成されていると聞く。梅花はその一人だった。だから彼女は神技隊の裏側にも詳しい。おそらく滝たちと会ったのもその一環だろう。普通は、神技隊と直接顔を合わせるのは長官のみだ。
「そうか、そうだな。今は神技隊の一人だからな」
 一瞬の間を置いてから、滝はわずかに右の口角を上げた。元若長も何か思うところがあるのだろうと、青葉は勝手に想像する。全ての立場や役割を帳消しにしてしまうのが神技隊という肩書きだ。実際のところは違ったとしても、そう見なされる。
「それでは、また何かありましたら」
「ああ、よろしく頼む。何もないことを祈ってるけどな。よし、戻るぞレンカ、ミツバ」
 軽く片手を上げた滝は、ミツバとレンカを促して踵を返した。青葉たちはその背中を見送る。姿を現しつつある太陽の光を浴びて、三人の輪郭がくっきり浮かび上がって見えた。この状況でも余裕があるように映るのは気のせいだろうか。少なくとも焦燥感は感じ取れない。
 しばらくしてその後ろ姿が曲がり角の向こう側へ消え去ると、梅花は一つ息を吐いた。安堵とも落胆とも受け取れる響きに、青葉はちらりと横目で彼女を見る。
「梅花はこれでよかったのか?」
「何が? 一応誤解は解けたんだから、目的は達成されたじゃない」
 表情を変えぬまま、梅花は小首を傾げた。そのことに関してなら、青葉も文句をつける気はない。昨日のあのダンとかいう青年がいなかったのがよかったのか、話がこじれることもなかった。だが、それでも昨日の争いがなかったことになるわけでもない。薄汚れたままである彼女のコートを、青葉は視界の端に収めた。
「目的達成は結構。でも勘違いとはいえ、お前は襲われたんだぞ。それなのに謝罪の一言もないとか」
「それを言ったら、青葉なんて膝蹴りまでしてたじゃない。でも謝ってないでしょう」
 呆れかえった彼女の声が、路地裏に染み入った。そうだったかと、青葉は記憶を掘り返す。細かいことは覚えていないが、ダンとかいう青年が手を痛めたことはすぐに思い出せた。咄嗟の感覚で動いたので、本当に膝蹴りをしたかどうかまではわからない。
「……でも先に手を出してきたのはあっちだろう?」
「だからって言い争っていても仕方ないでしょう。そろそろ人通りも増えてくるでしょうし、帰るわよ。私は報告にも行かなきゃならないし」
 この話はこれでおしまいだと言わんばかりに、梅花は青葉へと背を向けた。拒絶感露わだ。幾つかの言葉を口の中で転がしつつも、彼は結局ため息一つ吐いただけだった。彼女の頭の中には、既に仕事のことしか残っていないに違いない。
「また上が余計なこと言い出さなきゃいいんだけど」
 遠ざかっていく梅花の背中を見つめながら、青葉はぼやいた。その声は、建物の隙間を通り抜ける風によって、瞬く間に掻き消されてしまった。

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