秋も深くなる頃。落ち葉が舞い散る公園の中を、二人は歩いていた。
「それにしてもこんなに任務が来ない時なんて、初めてじゃないか?」
 その一方、黒い短髪、黒い瞳の青年が口を開く。
「まあね。大体どんなに長くても一週間に一度はあったから」
 もう一方、長い黒髪に同じく黒い瞳を持った少女は、そう素っ気なく答えた。
 違法者を追いかけろだとかどこにいるか調べろだとか、とにかく今までは何かかにかあったのだ。それがここ三週間程、全く音沙汰がない。
「今のうちにお金貯めとけ、ってことかもね。この間は危うく食費までなくなるところだったから」
 少女――梅花が遠い目をする。実はその時彼女はこっそり食事をかなり抜いたのだが、しかし仲間の四人には気づかれていなかった。気づかれていたら、特に今隣にいる青年――青葉にこっぴどく叱られていただろう。
 無茶するな、と。
「うわっ……あれかあ。ってそうだ梅花、お前、あのとき食事抜いてなかった?」
 梅花は、ぎくりとした。どう言いつくろうか考えながら、しかし顔はいつも通り醒めたままで、彼女は彼を見上げる。
「何のこと?」
「と・ぼ・け・る・なー! お前自分の分、ように回してただろっ!」
「回してないってば」
「ただでさえ、そんな折れそうな程細いんだから、食事くらいしっかり取れっ!」
 いつの間にか梅花の前に回り込んでいた青葉は、彼女の行く手を阻み叫ぶ。迷惑そうに眉根を寄せて梅花は嘆息した。
「これは普通。それに私は一食や二食抜いたって大丈夫なのよ、慣れてるから」
「そんなもんに慣れるなっ!」
「私が何に慣れようと、青葉には関係ないでしょ? それに過去は変えられないわ」
 なおもわめこうとする青葉の横をすり抜けて、梅花は歩き出す。慌てて彼は彼女を追った。
「待てよ、梅花」
 彼はそう声をかけるが、彼女は無言のまま。ただ落ち葉を踏みしめるカサカサという音だけがその場を覆う。
「無駄な心配はしないでね」
「は?」
 しばらくしてから、彼女は言った。青葉は首を傾げ、一瞬立ち止まる。
「私は普通と違うの。それはわかるでしょ? だから、その分の気遣いは他の三人に回してあげて」
 梅花も一瞬立ち止まり、そして振り返った。その横顔はどこか儚くて、秋のもの悲しさに溶け込むようだった。
 彼は息を呑む。
「ほら、さっさと帰りましょ。この公園の下見は終了。人いなくて、商売にはなりそうにないからね。次をあたらなきゃ」
 赤と黄色に彩られた道を、彼女は歩いていく。
「まったく……相変わらずつれない……」
 彼は苦笑しながらそうぼやき、その小さな後ろ姿を追った。まだまだその思いの実りは遠そうだった。

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